
2025年7月7日
便利箱/小田
3年越しの想いが実を結んだ劇的サヨナラ勝利──坂井の完投、主将・正代の一打が導いた歴史的瞬間
2025年7月5日(土)、阪神甲子園球場が、女子野球史に残る記念すべき一夜となった。阪神タイガースWomenと読売ジャイアンツ女子チームによる“女子野球版・伝統の一戦”が開催され、スタンドには3,200人を超える観客が集結。夜空の下、球場全体が熱気に包まれ、女子野球への関心の高まりを肌で感じる舞台となった。
阪神タイガースWomenにとって、この試合は並々ならぬ意味を持っていた。
これまでの巨人女子チームとの対戦成績は0勝3敗1分。得点すら奪えておらず、「打破したい」「勝ちたい」という想いは、選手たちの表情やウォームアップからすでににじみ出ていた。
一方、ジャイアンツ女子にとってもこの試合は特別だ。
2022年のチーム創設から、着実に勝ち星を積み重ね、阪神戦では常に一歩先を行ってきた。だが、阪神の本拠地・甲子園での一戦には独特のプレッシャーがある。女子野球が、この地でどれだけのドラマを生み出せるか。その答えは、選手たちのプレーに委ねられていた。
午後6時、一軍の試合終了とともに、女子チームによる伝統の一戦がプレイボール。阪神の先発は、19歳の左腕・坂井歩夢。緩急とコントロールを武器に、序盤からジャイアンツ打線を封じ込める投球を展開した。一方のジャイアンツは、小野寺から桑沢、そして吉安への継投策。いずれも球威ある投球で、序盤は互いに得点を許さない緊迫した投手戦となった。
試合が動いたのは3回表。ジャイアンツの島野が鋭い打球で二塁打を放ち、続く打者の連打でチャンスを広げると、内田のタイムリーヒットで先制点を奪う。坂井は一瞬表情を曇らせたが、すぐに切り替えて以降の打者を落ち着いて打ち取り、最少失点で切り抜けた。
試合はそのまま投手戦の様相を続けるが、阪神ベンチの声援は途切れることがなかった。守備中も、打者ごとに声を掛け合い、1球ごとに集中力を高めていく姿が印象的だった。
5回裏、ついに阪神にチャンスが訪れる。白石が内野安打と相手のミスで出塁すると、続く主将・正代絢子が落ち着いて四球を選ぶ。2死一・二塁の場面でバッターボックスには高橋愛。プレッシャーのかかる場面だったが、右前にライナーで打ち返す鋭い一打が飛び出し、ランナーがホームイン。チームとして甲子園で初めての得点が生まれ、試合はついに1-1の同点となった。
この瞬間、スタンドからは「初得点!」の歓声が湧き起こり、チームのベンチも大きく沸いた。ファンとチームが一体となったような、その場にいた全員が共有できる感動の空気が甲子園を包み込んだ。
このまま迎えた最終7回裏。ここで阪神に再び勝機が訪れる。田垣が右前安打で出塁し、続く打者の打席中に相手バッテリーの暴投で三塁へ進塁。スタンドも、ベンチも、祈るような空気に包まれる中、打席には主将・正代が立った。
ここで、正代が放ったのは左中間への犠牲フライ。これが決勝点となり、阪神タイガースWomenはついに読売ジャイアンツ女子に対して、3年越しの初勝利を手にした。ベンチから飛び出す仲間たち、喜びを爆発させる選手たち、そして“ウォーターシャワー”を浴びながらグラウンドを笑顔で一周する姿が、最高のエンディングを飾った。
試合 後、正代は「絶対に勝とうと決めていたので、有言実行できてよかった。みんながつないでくれた結果です」と語り、坂井は「3度目の正直で、やっとつかんだ勝利。これからの一歩になります」と笑顔を見せた。木戸克彦監督も、「選手たちが本当によく頑張った。坂井も完投でよく投げてくれたし、競争を重ねたことでチームが成長してきた」とチーム全体の進化を実感していた。
一方で、敗れたジャイアンツ女子の宮本和知監督は「10安打で1得点は監督の責任。ただ、選手たちは成長しているし、この敗戦もまた次への糧になる」と前を向いていた。
この勝利は、阪神タイガースWomenにとって初勝利というだけではなく、女子野球そのものにとっても大きな意味を持つ瞬間だった。これまで男子中心に語られてきた「甲子園の伝統」に、女子野球という新たな歴史が刻まれた夜でもある。
しかも、これはまだ序章にすぎない。7月20日には東京ドームで再び両チームが対戦する。甲子園での初勝利を引っ提げて乗り込む阪神、リベンジを誓うジャイアンツ。再戦は“伝統の一戦”の次章を彩ることになるだろう。
試合の中で輝いたのは、プレーだけではない。声を出し続けるベンチワーク、仲間を励まし合う姿勢、そしてファッションやプレースタイルに込められた選手それぞれの“個性”もまた、女子野球の魅力だ。短い7イニング制の中に、戦術、チームワーク、粘り強さ、そして何より「勝ちたい」という情熱が凝縮されていた。
この夜、甲子園で生まれたサヨナラ勝利は、選手にとって、観客にとって、そして女子野球を応援するすべての人々にとって、忘れられない記憶となるだろう。歓声、涙、抱き合う姿に宿った努力と情熱は、女子野球の未来を照らす希望の光となって、次のステージへとつながっていく。
