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Game Review:ジャイアンツ女子、歴史の扉を開く ― ジャイアンツタウンスタジアム開業記念試合で巨人OBに7対2の快勝

2025年8月25日

便利箱/小田

伝統の名手たちを前に怯まず挑んだ若き力。ファームの新拠点で示した女子野球の未来への可能性

2025年8月25日(月)、真新しい人工芝が光を放つ「ジャイアンツタウンスタジアム」に、世代を越えた野球人たちの夢の舞台が広がった。読売ジャイアンツのファーム新拠点として誕生したこのスタジアムは、単なる練習場ではない。イースタン公式戦を中心に女子チーム、ユース世代の育成まで担う、スポーツとエンターテインメントの融合拠点だ。その開業を記念して組まれたのが、巨人軍OBとジャイアンツ女子による交流試合。観客席を埋め尽くした約3000人のファンの前で繰り広げられたのは、過去と未来が交差する祝祭の一戦だった。


結果は7対2でジャイアンツ女子が勝利。スコアボードに刻まれた数字以上に、この試合が放ったメッセージは大きい。歴史と伝統を誇る巨人軍OBに挑み、恐れることなく自分たちの野球を貫き勝ち切った女子選手たち。その堂々たる戦いぶりは、新拠点の幕開けにふさわしい輝きを放っていた。


初回から女子の猛攻、主役の座を奪う

試合は序盤から大きく動いた。先発のマウンドに上がったのは槙原寛己氏。巨人の黄金期を支えた右腕だが、対する女子打線の勢いに押された。先頭打者が右中間を破る三塁打を放つと、続く二番打者が初球を迷いなく打ち返し、ライト前にタイムリーヒット。女子チームは一気に畳みかけ、犠牲フライや内野安打も絡めて初回だけで4得点を奪った。槙原氏はアウトを一つも取れぬままマウンドを降りざるを得ず、OBベンチには苦笑いと拍手が交錯した。


女子選手たちは「記念試合」という舞台を全身で楽しみながらも、勝利への意欲を隠さなかった。走者が出れば次打者は必ず進塁打を意識し、守備では大きな声で連携を確認。初回の4点は偶然ではなく、日々の練習で培ってきた「チームの約束事」の積み重ねから生まれたものだった。


OBの名投手陣、女子打線に苦戦

2回からは斎藤雅樹氏が登板。かつての「精密機械」は健在で、低めへの制球力は今も光った。しかし女子の若い打者たちはその制球力に惑わされず、甘く入った直球を捉えてさらに1点を加える。斎藤氏は1回を投げ抜いたものの、計2安打1失点。「まあ、今日はこれくらいで勘弁してもらおう」と笑顔でベンチへ戻る姿が印象的だった。


その後、球場は一段と盛り上がった。中盤に打席に立った原辰徳氏がライト前にクリーンヒットを放つと、スタンドは大きな拍手に包まれた。名将としての姿が知られる原氏だが、バットを握ればやはり“巨人の四番”。この一打は、女子選手たちにとっても「巨人OBの重み」を肌で感じさせる瞬間となった。


さらに井納翔一氏がリリーフで登場すると、球速表示には最速143キロの数字が躍った。直球で押し、変化球を織り交ぜ、三者連続三振を奪った姿は、現役時代さながら。観客からどよめきが上がり、女子ベンチからも「すごい!」と驚きの声が漏れた。しかし、全体の流れを掌握したのは女子チームだった。彼女たちはリスペクトを胸に抱きつつも、臆することなくプレーを続けた。


女子チームの守備と投手陣の粘り

攻撃だけでなく、女子チームは守備でも存在感を発揮した。三遊間に鋭い打球が飛べば、ショートが素早く反応して体を投げ出し、正確な送球でアウトをもぎ取る。外野ではライン際のフライにダイブし、観客席を沸かせた。こうした一つひとつのプレーが、OB打線のリズムを崩した。


投手陣も落ち着いた投球を披露。球威こそプロOBに及ばないものの、コースを丁寧に突き、要所では緩急を駆使。ピンチの場面ではバッテリーが集まり、笑顔で確認し合う姿が印象的だった。結果として強打者揃いのOBを相手にわずか2点に封じ込めたことは、大きな自信となったはずだ。


豪華OB布陣の存在感と記録

この日の巨人軍OBは、まさに“ドリームチーム”だった。スタメンには大田泰示、篠塚和典、高橋由伸、原辰徳、小笠原道大、清水隆行、元木大介、村田真一、大久保博元といった顔ぶれが並び、スタンドのファンを喜ばせた。


個人成績では、原氏がライト前安打を記録し、高橋由伸氏も鋭いスイングを披露。小笠原氏は豪快なフルスイングでスタンドをどよめかせ、元木氏は三遊間を破るヒットで健在ぶりを示した。捕手を務めた村田氏は、女子の俊足を前に苦しみながらも、巧みなリードで投手陣を支えた。


投手陣では、先発の槙原氏が4失点と苦しみ、斎藤氏が1失点。井納氏は圧巻の三者連続三振で観客を魅了した。数字以上に、彼らがグラウンドに立つだけで漂う“巨人軍の重み”は、女子選手にとって貴重な経験となったに違いない。


スタジアムが描く未来像

この交流試合の舞台となったジャイアンツタウンスタジアムは、稲城市に整備されたファームの新拠点だ。収容は約2900席。両翼100メートル、中堅122メートルの本格仕様に加え、エキサイトシートや天然芝の外野席など、観戦者が選手との距離を近く感じられる工夫が随所に施されている。


さらに、球場を核とする「ジャイアンツタウン」は、マルシェやスポーツ教室、脱出ゲームなど多彩なイベントを展開可能な“スポーツとエンタメの融合施設”をコンセプトにしている。2027年には水族館や飲食施設の開業も予定されており、家族や地域住民が一日中楽しめる複合空間となる見込みだ。女子野球にとっても、この拠点が新しいファン層を獲得する場となる可能性は大きい。


「長嶋茂雄は永久に不滅です」

試合後、観客席から響いたのは「長嶋茂雄は永久に不滅です!」という声だった。1974年の名フレーズを想起させるその言葉は、偉大な球団史への敬意であり、同時に未来へのバトンでもある。過去の栄光と未来を切り開く若い力が一堂に会したこの試合は、野球というスポーツが世代を越えて人々を結びつけることを改めて示した。


終わりに

ジャイアンツ女子が記念試合で示したのは「勝利」だけではなかった。豪華OBを前にしても物おじしない姿勢、全員で声を掛け合いながらつかんだアウト、走者を還すことに徹した打撃。そこには未来を担う野球人としての強い意思があった。


7対2というスコアは、単なる数字の勝敗ではなく、女子野球が日本のスポーツシーンに確かな存在感を示した証しだ。新拠点スタジアムの幕開けにふさわしい鮮やかな勝利は、今後の女子野球の発展を予感させるものとなった。巨人軍の伝統と、女子選手たちの未来。その二つが交差した夜の記憶は、ジャイアンツタウンの歴史に永遠に刻まれるだろう。

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