top of page

Game Review:波乱の幕開け、実力伯仲の頂上決戦へ ― 第21回伊予銀杯全国女子硬式野球選手権大会 ―

2025年10月16日

DH編集部

上位常連に食い込む高校・大学勢――女子野球の主役は確実に広がっている

10月11日から15日にかけて開催された「第21回伊予銀行杯全国女子硬式野球選手権大会」。例年にない波乱の連続で幕を開けた今大会は、女子野球界全体の実力が拮抗してきたことを鮮烈に印象づける大会となった。強豪の早期敗退、台頭する高校・大学勢、そして接戦を制したエイジェックの勝負強さ——女子野球の“新時代”を感じさせる5日間を振り返る。



序盤戦から強豪が次々と姿を消す衝撃展開

大会序盤、最も大きなインパクトを与えたのは、これまで女子硬式野球界を牽引してきた強豪クラブの相次ぐ敗退だった。


まず波乱の象徴となったのが、阪神タイガース Womenの1回戦敗退だ。優勝経験もある阪神は、東近江バイオレッツとの一戦で中盤までリードするも、終盤に逆転を許し敗戦。会場全体にどよめきが広がった。


続いて、優勝実績を誇るアサヒトラストが福知山成美高校にサヨナラ負け。7回裏、福知山成美が一挙4点を奪い、劇的な逆転劇を演じた。クラブの名門が高校生チームに土をつけられる展開は、大会の空気を一変させた。


2回戦では、2023年準優勝の実績を持つ埼玉西武ライオンズ・レディースが、ZENKO BEAMSとの接戦を落とした。最終回の7回裏にZENKO BEAMSが1点を奪いサヨナラ勝ち。紙一重の勝負を制したのは挑戦者だった。


さらに、2025年8月の「第20回全日本女子硬式クラブ野球選手権大会」でベスト4入りした東海NEXUSが、勢いに乗る東近江バイオレッツに敗退。同じくベスト4だったはつかいちサンブレイズも、福井工業大学とのタイブレークの末、惜しくも初戦敗退を喫した。

強豪が次々と姿を消す異例の展開——その裏には、女子野球全体の底上げと拮抗が確実に進んでいる現実があった。



高校・大学勢が躍動、クラブ勢を圧倒する場面も

今大会では、高校・大学チームの躍進が目立った。福知山成美高校、福井工業大学といった若いチームが、技術・集中力・終盤の勝負強さでクラブ勢を凌駕。守備の安定感や継投の巧みさも光った。


大会全体を通して、一方的な試合はほとんど見られなかった。どの試合も接戦で、勝敗を分けたのはわずかな集中力の差。女子野球界のレベルアップと、勢力図の変化が如実に現れた大会だった。



準々決勝・準決勝:勝負強さが光ったエイジェック

混戦の中、勝ち上がりを見せたのはエイジェックと神戸弘陵学園高校だった。

エイジェックは準々決勝でタイブレークの末にサヨナラ勝ち。続く準決勝でも、終盤の一打で逆転し、再びサヨナラ勝ちを収めた。接戦続きの中での連勝は、チームの結束力と勝負強さを証明するものだった。


一方、神戸弘陵はエース阿部さくら投手のフル回転が光った。MLBで活躍したイチロー氏が率いるKOBE CHIBENとの対戦後、ヒロインインタビューに呼ばれて登壇したことでも注目を集めた彼女は、この大会でも全試合に登板。粘り強いピッチングでチームを決勝へと導いた。



決勝戦:2022年と同じ顔合わせ、頂上決戦の行方は——

決勝の舞台は、2022年と同じカードとなるエイジェック vs 神戸弘陵学園高校。緊張感が張り詰める中、阿部投手は序盤からテンポよく打者を打ち取り、試合は投手戦の様相を呈した。均衡を破ったのは神戸弘陵。2回に先制点を奪い、リードを握る。4回を終えてスコアは0-1。神戸弘陵が最小得点差で主導権を保ち、スタンドも一投一打に息を呑む展開となる。


勝負が大きく動いたのは5回裏だ。ここまで巧みに打者を封じてきた阿部投手に、わずかな疲労の色が見え始める。エイジェックは見逃さなかった。先頭の出塁を足がかりに、長短打を絡めて一気に畳みかけ、この回に3点を奪って逆転。神戸弘陵は継投策に打って出るが、エイジェックの勢いは止まらない。終盤にも追加点を積み上げ、試合の流れを完全に掌握した。


阿部投手は序盤から堂々たる投球でチームを牽引したが、5回裏の一挙攻勢を越えられず。後を託した投手陣も要所で踏ん張るものの、エイジェック打線の圧力を受けて失点を重ね、神戸弘陵は二連覇を逃して準優勝。それでも、全試合に登板して最後までチームを前線に立たせた阿部の奮闘は、今大会のハイライトのひとつである。


勝利したエイジェックは、2022年以来となる3度目の優勝。準々決勝・準決勝のサヨナラ勝ちで高めたチームの“勝ち切る力”を、決勝でも体現して王座に返り咲いた。



実力伯仲が示す女子野球の新時代

第21回伊予銀杯は、大差の試合が少なく、最後まで勝敗の読めない好ゲームが続いた。高校・大学勢の台頭、クラブ勢の苦戦、そして接戦を制したエイジェックの勝負強さ。女子野球界は確実に新しい時代へと歩みを進めている。


強豪が序盤で敗退する一方で、新鋭チームが存在感を示し、どのチームにも勝機が生まれた今大会。この拮抗こそが競技全体の成長の証であり、来年以降のさらなる進化を予感させる。女子野球の未来は、確実に動き始めている。

bottom of page